最終話
「戸次さんとスタッフにしか知らされなかった演出」
突然、旭川に帰ってきた松野は、物語が進むにつれて、モニュメント制作の中で自分自身と向き合い、
どんどん追い込まれていきます。それは、「狂気」にも見えるわけですが、そ
の狂気への変わり目を描いたシーンがあります。
このシーンは松野、原田(遠藤要さん)、森(内田朝陽さん)がそれぞれの立場で
対峙をする重要なシーンです。役者さんにとっても、感情の緩急の大きなシーンであるため、
リハーサルから本気で挑んでいるのを感じました。緊張と、怒りと狂気が必要なシーンでしたが、
リハーサルの中で、どうしても「狂気」が足りなく思えていたため、段取りやテストに時間をかけ、
撮影自体も長回し撮影をすることを選び、本番への準備を進めました。最後のテストでも、
十分に良い仕上がりになっていましたが、本番直前に、戸次さんとスタッフにだけ、
ある演出を伝えました。それは「二人に、ノコギリを向けてください」というものでした。
そして迎えた本番、当初の予定通り長回し(※1)で撮影は行っていきます。ただ違うのは、
リハーサルになかった動きが入ることです。結果として、求めていた「狂気」と共演者の更なる感情を生む、大切な要素にはなったと思っています。このシーンは1発OKとなりました。
もちろん、テストとは違う動きに対応した共演のお二人の実力もあるからできることで、
3人の素晴らしさ体感しました。そして、松野を語る上でも、とても重要なシーンとなりました。
ぜひ大きなスクリーンで実際に体感してください。
そしてその奥にあるそれぞれの感情を感じて頂けたら嬉しいです。
さて連載も最終回を迎えましたがいかがでしたでしょうか?
撮影現場で、見たこと、感じたことをつらつらと連載してまいりました。
「ホコリと幻想」は、地元旭川を出て、東京に向かった松野が、
ある日ふらっと地元に帰ってくるところから物語がスタートします。
なぜ松野は、旭川に帰ってきたのか。松野はいったい何を思い、何を考えていたのか。
そしてそんな松野を見続けた同級生たちの物語でもあります。
さまざまなキャラクターの立場で何度もご覧いただければと思っています。
※1)長回しとは、カットせずに長い間カメラを回し続ける映画の技法。
カットせずにカメラを回し続けることにより、役者の緊張感や映像の
臨場感を維持し続けることができるという効果がある。
第五回
「予想を上回ったエキストラ募集」
今回の作品では、物語の終盤。劇中のイベントに参加するという設定で、
たくさんのエキストラさんが必要でした。地元の方にご協力をお願いするにしても、
たくさんの方にお集まりいただくのはなかなか難しいことです。
そこで、旭川観光コンベンション協会さんにご協力をお願いし、
一定の募集期間を設定し、150名のエキストラを募集することになりました。
募集開始後、150名という募集枠は、あっという間に定員に達し、
気が付けば300名を超えるエントリーがあったのです。
予想以上の反応に、応募期間は決めていたのですが、
急遽募集を終了させて頂きました。応募できなかった方本当に申し訳ありません。
当日は、長時間に及ぶ寒空の中での撮影でした。
ご参加いただいた皆様には本当に頑張っていただきました。
撮影終了後、ご参加いただいた方に感謝の気持ちを込めて
「ホコリと幻想」スタッフTシャツをプレゼントさせて頂き、また主演の戸次さんからは、
ご挨拶をいただきました。そしてなんとサプライズで特技披露までしてくださったのです。
撮影最後に、寒さに震えていた現場が一気に沸いたのを覚えています。
本当にたくさんの方の力をお借りして、この作品は完成致しました。
改めてお礼を言わせてください。
皆様、本当にありがとうございました。
この作品はたくさんの方の思いを受けて、間もなく公開を迎えます。
あのシーンがどんな風に仕上がったのかは、ぜひ劇場でお確かめください。
第四回
「役者:戸次重幸の役作り」
今回、戸次さんが演じてくださった松野という役。
劇中では、自分自身と向き合う中で、どんどん内側にこもっていくキャラクターです。
そして心理状況を表すかのように、キャラクター自身もやつれていきます。
撮影が進むにつれて、戸次さん自身も食事もセーブし、役の経過に合わせて、
みるみる体重を落としていきました。
しかし、本来初日に撮影する予定だった、松野が旭川に降り立つシーン。
車の故障などにより、最初のシーンを戸次さんの最終日に組み込まなければいけませんでした。
戸次さんの撮影最終日、私は役者戸次重幸の役者魂を目の当たりにしました。
先日までやつれていたはずの戸次さんは、前日ラーメン屋をハシゴし、
体重を戻して現場に入られたのです。
もともと体のコンディションを整えたりと、ストイックな一面があることはわかっていたつもりです。
しかし、今回の撮影に入る前から、お酒が大好きな戸次さんがこの作品のために、
願掛けで「人生初の禁酒」続けていたこと、そして毎晩、撮影後にかなりの距離を
走っていたことを知り、また状況に合わせ体作りをされる姿勢を、近くで見させていただきました。
ストイックに打ち込み、松野という役と向き合い続けてきた
戸次重幸さんの役者魂を、ぜひスクリーンでご覧いただければと思います。
第三回
「クランクイン前のディスカッション」
クランクイン2日前。
舞台となる旭川の土地に降り立った戸次さんと美波さんと私で
たっぷりと時間をとっての3人でのディスカッションを行いました。
それぞれがその日までに考えてきたこと、そして旭川の空気を吸ってから訪れた心境の変化、
感覚的にとらえたものをとにかく出すことが出来ました。
撮影にあたり世界観、そして役の深い部分を共有するのにとても重要時間だったと思っています。
美波さんから特に強く出てきたことは、
「旭川という土地に住み、女性として生きていることへの現実感」でした。
女性としての結婚観、そしてその後の人生観でした。
美波さんが演じた美樹は台詞が少なく、それ以外での勝負が要求されていましたが、
僅かな心の変化を見事に表現してくださいました。
その微妙な心の変化を読み取っていくのは、物語を深く理解する一つの重要な要素となっています。
そして、戸次さんから強く出てきたのは、
美波さんの話への共感と、そして物語後半の松野の心情のアプローチについてでした。
戸次さんが演じた松野は、前半から後半へのアプローチ、そのプロセスは
難しい内容だったと思いますが、それを見事に演じきってくれました。
そして松野が抱えた、一番心の底にあるものを痛々しいほどに体現していただいています。
二人から出てきた新しいアイデアも豊富で、そのうちのいくつかは、本番でも使用されています。
台詞にはない、微妙な心の変化、そして抱えている何かを感じて頂けたらと思います。
第二回
「寒暖の差…というレベルではなかった昼夜の気温差」
再び、天候にまつわるお話です。
一回目の配信でもありましたが、4月の北海道は、まだまだ雪の降る日があります。
これは、北海道の人にしてみれば、常識と言えます。
事前情報もあったので、もちろん防寒具を用意しての撮影。
各々用意した装備に差はありましたが、ある程度の覚悟はして挑みました。
実際には、夜の冷え方は想像を超え、氷点下になった日もあったほどで
特に風が吹くと、遮るものがほとんどないロケ地での体感温度は…。
そんな時我々スタッフは防寒具がありますが、
本番中、役者さんは防寒具なしでのお芝居、本当に頭が下がる思いでした…
そんな我々の想像を超えたのは、
日中の撮影では汗ばむほどに気温が上がったということです。
その気温差たるや。
日中は半袖のTシャツ、そして夜はダウンという寒暖の差。
夜は凍えているのに、日中は日焼けが進み・・・という環境の中
体力はどんどん奪われていくというキツイ現場となりました
しかし我々の頑張りが誰かに届いたのか、
寒暖の差は激しかったものの、幸運にも全行程、
天候に恵まれ無事にクランクアップを迎えたのでした。
第一回
「北海道の4月は、春ではない?」
東京では、花見シーズンも終わりに差し掛かる4月上旬。
クランクイン直前の旭川市は、雪で覆われていました。
2014年のその年は、例年には無いほどの雪に見舞われ、吹雪の日もあったほどです。
先発隊として旭川で準備を進めていた制作部は、ロケ地の状況確認に車で向かうも、
途中で断念せざるを得ないほどの吹雪でした。
本隊が旭川入りする直前まで、
「この際…設定、脚本をこういう雪の感じにしてしまいましょうか?」
という話が出たほどです。
誰もが目を疑い、どうやって撮影を進めるかを日々検討している状況ではありましたが、
旭川人は顔色ひとつ変えずに「大丈夫。溶けるから」と一言。
これほどまでの雪は珍しいようですが、4月の北海道は、冬でもなく春でもなく、
その中間の季節と言えます。日中も厳しい寒さの中での撮影になるなと、
覚悟をしながらクランクインまで準備を進めました。
「4月なのにTHE真冬の北海道」の景色が、たった1週間でどれくらい変化したのかは…
予告編だけでは伝わりにくい細部を、本編にて是非、確認してみてください。
劇場の大きなスクリーンで!
ちなみに、本作の舞台(季節の設定)も、そのまま「4月の北海道」という設定でした。