明治から昭和の時代、人々に夢や希望を与え続け、時代の名だたるスターを輩出し続けた、近代日本最大の娯楽街・浅草六区。その礎を築いたのは、こんなにも魅力的な男達だった------。
志高く、情に厚く、庶民のために生き、明治から昭和にかけて浅草六区を近代日本最大の娯楽街に発展させた、筑波出身の男・山田喜久次郎。そして彼とともに浅草六区を隆盛に導いた、浅草一の興行師・根岸浜吉。瓢箪池の向こうに凌雲閣(通称、十二階)がそびえ立ち、見世物小屋が立ち並ぶ明治の浅草を舞台に、男達の熱いドラマが幕を開ける。平成の現代からタイムスリップしたひとりの若者の目を通して・・・。
その荒い気性から若い頃は鉄砲喜久と呼ばれ、その後、浅草六区の発展に務めた山田喜久次郎。先見の明を備え、人間的な魅力に満ちた喜久次郎の、胸のすくような生き方を体現するのは、松平健。そして浅草六区初の劇場・常磐座を作って興行を仕切り、終生、喜久次郎と信頼の絆で結ばれていた根岸浜吉を、人情味ある重厚な存在感で演じるのは、芸能40周年記念作品『約束』(OV)以来、テレビドラマや声優以外では15年ぶりに俳優としての顔を見せる北島三郎。「暴れん坊将軍」以来14年ぶりの二人の顔合わせも話題だ。
一方、現代からタイムスリップして、喜久次郎のもとで成長していく現代の若者・幸田啓介には、ドラマや舞台で活躍する長谷川純。そして、田村亮、星由里子、秋吉久美子といった演技派俳優の豪華競演がこの熱い人間ドラマを盛り上げる。
本作では、歴史を飾った人物達と喜久次郎とのエピソードも語られる。根岸浜吉の紹介で若き喜久次郎が付き人として付いた歌舞伎の市川左団次(初代)。喜久次郎が後援者となった茨城出身の名横綱・常陸山。喜久次郎が浅草のために堂々と直言した相手、当時の東京市長で後の「議会政治の父」・尾崎咢堂・・・。常に誠実かつ真摯に事に当たり、何事も自分の手柄とすることのない、人望厚い喜久次郎の、ユーモア精神を忘れぬ豪快な気性が垣間見えよう。
タイムスリップした現代の若者の視点から、近代エンターテイメントの聖地・浅草六区を創った明治の男達の熱いドラマを描く、映画『浅草・筑波の喜久次郎』。本作は、製作者が「快侠山田喜久次郎君」(小林蹴月編 中央新聞社 昭和4年)、「鉄砲喜久一代記 明治・大正・昭和を駆け抜けた快男子」 (油棚憲一著 福昌堂 平成12年)などの書籍に古本屋等で偶然、巡り合ったことからスタート出来た企画である。
平成の世に失われつつある義理と人情。未来を創るエネルギーに満ち、漢気ある彼らの筋の通った熱い生き方は、現代に生きる私達の心を揺さぶるに違いない。
安政6(1859)年1月1日、常陸国(現在の茨城県)筑波郡北条(現在のつくば市北条)に生まれる。若い頃は全国を放浪し、常に鉄砲を懐に忍ばせていた荒い気性から鉄砲喜久と呼ばれた。その後、上京して根岸浜吉に出会い、彼を助けて浅草六区の発展に務め、興行、実業界で活躍した。横綱・常陸山、天才浪曲師・桃中軒雲右衛門、新国劇の沢田正二郎などをバックアップしたことでも知られる。昭和3(1928)年4月2日、70歳で死去。
文政11(1828)年、常陸(現在の茨城県)筑波郡小田村(現在のつくば市小田)に生まれる。東京、新富町の新富座で働いた後、明治20(1887)年、興行会社・根岸興行部を設立し、浅草六区に同地初の劇場・常磐座を作る。道化踊りや、歌舞伎、新派劇などの演劇の他、活動写真にも進出。浅草一の興行師として、山田喜久次郎とともに、大衆娯楽街としての浅草六区の隆盛の礎を築く。明治45(1912)年、5月7日、85歳で死去。
明治から昭和にかけて、近代日本最大の興行街として繁栄した、東京都台東区浅草の一地域。明治17(1884)年、前年に造成が完了した浅草公園が七区画に区分される。そのうち六区は、浅草寺の西側に位置する地域。明治20(1887)年、六区初の劇場・常磐座が開場。明治36(1903)年には、日本初の活動写真常設館・電気館が開場。その他、数々の劇場、映画館が作られて賑わい、大正時代には、浅草オペラ(常盤座<常磐座から改称>が発祥の劇場)、昭和に入ると、軽演劇、女剣劇、戦後は、ストリップやコントなどが人気を集めた。観光名所として、明治23(1890)年に開場した高層の凌雲閣(通称、十二階)が存在したが、大正12(1923)年の関東大震災で崩壊した。
浅草六区が生んだ時代のスターには、榎本健一(エノケン)や古川ロッパ、浅香光代、コント55号(萩本欽一、坂上二郎)やツービート(ビートたけし、ビートきよし)などがいる。
●参考資料
コトバンク「山田喜久次郎」
コトバンク「根岸浜吉」
Wikipedia「根岸浜吉」
浅草六区今昔マップ(by 浅草六区再生プロジェクト 六区ブロードウェイ商店街)サイト
浅草六区誕生130周年記念事業「浅草六区再生プロジェクト」サイト
Wikipedia「浅草公園六区」
Wikipedia「常盤座」
油棚憲一著 昭和58年 『浅草六区を興した男 鉄砲喜久一代』 国際情報社