現代。茨城県つくば市で小さな劇団を主宰する幸田啓介(長谷川純)。意欲はあるが、どこか頼りなく、劇団の経済事情も火の車。そんな啓介に、劇場の大家の妻木久代(星由里子)は不思議な提案をする。久代だけのために、心から感動できる芝居を作って公演すること。そして、山田直美(戸井智恵美)という若い女性をその芝居に起用すること。この二つの条件をクリアすれば、劇場の家賃滞納分をなしにして、劇団存続を認めてくれるというのだ。
そんな時、啓介は、明治時代の浅草を描いた数枚の古いスケッチを家の中で見つける。母・康子(秋吉久美子)によれば、それらは浅草で映画館の看板を描いていた啓介のひいひいおじいさん、吉郎による絵だという。そしてある日、吉郎の絵を片手に浅草を巡っていた啓介に、不思議なことが起きる。なんと、一緒にいた座付き作家の夢子(水町レイコ)と共に、時空を超えてしまったのだ!
気づけば、啓介と夢子は、明治時代の浅草の神社の境内にいた。呆然とする彼らを、荒くれ者達が襲う。二人を助けてくれたのは、人力車から降り立ったひとりの男。彼はドスを片手に襲い来る男達を素手でいなし、暴漢を拳銃で追い払う。彼の名は、山田喜久次郎(松平健)。それは、明治から昭和にかけて、浅草六区の発展に貢献することになる、筑波の北条出身の男の名・・・。
喜久次郎は、夢子を守れなかった啓介を、「男らしくしろい!」と叱責した。だが、啓介たちが自分と同郷であり、しかも行く当てがないと知ると、家に住まわせて面倒をみてくれるのだった。喜久次郎の家は、妻のお辰が女将となって経営する吉原の辰稲楼。啓介は、喜久次郎のもとで働き、男として修行することになった。
喜久次郎は、ある野心を持っていた。志をもって事に当たろうとする人を陰で支えつつ、アメリカに負けぬような娯楽施設を浅草に作ろうとしていたのだ。その言葉に胸を突かれ、「教えてください」と頼む啓介を、喜久次郎は「盗め!先人の技を盗んで自分のものにするんだ」と一喝した。
盗むべきものを持っている男は、もうひとりいた。喜久次郎と信頼の絆で結ばれている、根岸浜吉(北島三郎)。興行会社・根岸興行部を興し、浅草六区初の劇場・常磐座を作った男だ。彼は、警視庁に乗り込んで警視達の人間としての心を揺さぶり、浅草での「道化踊り」の興行を認めさせ、常磐座を盛況に導いた武勇伝の持ち主。喜久次郎と浜吉が愉快そうに話すのを見ながら、啓介は、浅草六区を興そうとしている二人の男の心意気に感激するのだった。
脚本家の夢子もまた、喜久次郎の波乱万丈な人生に興味を持ち、彼の話を書き留めていく。11歳で父を亡くし、奉公に出るも、喧嘩早く、20ほど奉公先を変えたこと。全国を放浪して人の表も裏も知ったこと。上京し、新富町の新富座の前で、そこで興行師の修行をしていた根岸浜吉から声をかけられたこと。同じ筑波出身と知った浜吉から、芝居「幡随院長兵衛」を見せてもらったこと。強きをくじき弱きを助ける幡随院長兵衛に感激し、そんな生き方をすると決意したこと・・・。
喜久次郎は、次世代の娯楽となる、映画にも興味を持ち、浜吉と共に浅草六区の目玉とするべく未来を語り合う。喜久次郎のもとで過ごすうち、啓介は、先見の明があり、何事も決して自分の手柄とすることのない、漢気のある喜久次郎に、どんどん心酔していくのだった。
そんな喜久次郎には、芸者との間に出来た娘、芸者の力弥(戸井智恵美)がいた。力弥は、平成の世で劇団に入った山田直美に瓜二つ。謎めいた力弥に恋する啓介だったが、彼がこの時代に居続けることは運命が許さなかった。
・・・池に落ち、引きずり込まれるように沈んだ啓介は、病院で目を覚ます。そこは、現代。3年間を明治時代の喜久次郎のもとで過ごしたはずなのに、こちらでは3日間しか経っていなかった。
あの3年が夢か現実かわからぬままに、啓介は、ある決意をする。その生き方に魂を揺さぶられた喜久次郎の一代記を芝居にしようと考えたのだ。脚本家の夢子も、神社の境内を通じて現代に戻って来た。だがそんな時、思いもよらぬ困難が次々と彼を襲う。喜久次郎から様々なことを吸収し、鍛えられたはずの啓介だったが、窮地に陥ると、またもや心が弱くなってしまうのだった。
「バカ野郎、なに考えてるんだ!」。その時、聞こえてきたのは、懐かしい喜久次郎の声・・・。
果たして、喜久次郎は何を語るのか? そして啓介は、人を感動させる芝居を創るという志を遂げ、自分の道を歩むことができるのか?