手塚眞さん/2018年2月21日舞台挨拶での『ライカ』評
《ライカはユーリャのイマジナリーフレンド》
今日観て、宇宙に行くという話が(「星くず兄弟の新たな伝説」手塚眞監督最新作と)シンクロしてるからびっくりした。同じ時期に新作が新宿で公開されてることも。
すごくいい映画ですね。純粋に、観終わって気持ち良かった。
僕の個人的な意見ですが、『ライカ』は1人の少女の成長の話、それは観ればわかるって感じなんですけど、特に少女から大人に変わるところの心理的なイニシエーション、通過儀礼の映画だと思いました。
自分はモノを創る人間なので、観ている時に頭で妄想を膨らましていくんですけども、ライカちゃんって日本人がやってる女の子は、現実にはいないんだなって思ってるんです。ユーリャの心の中の“イマジナリーフレンド”なんだと。子供の頃からずっとあの子がいて、自分を愛してくれている。それは、ユーリャの育った環境でなかなか愛を受け入れられなかったという、お母さんの関係とかね。そういうのがあって、自分の中に恋人を作り出しちゃったのかな、妄想で。
つまりユーリャの中ではライカは実在していて、彼女を愛してる。それが成長の中で男性(ニコライ)ができたり、最後ちょっと妊娠したみたいな話が出てきますが、要するに少女から大人の女になるわけです。あそこのところで、ユーリャはライカを絶縁しなければならない、自分の心の中からそのイマジナリーフレンドを消しさらなければならないという、その苦しみの映画なんだろうなと思ったんです。
この映画のリアリティー、要するにロシアがリアルじゃないですか。普通、僕らは日本人だから、ロシアを舞台に映画を撮るとすると、日本がリアルでロシアがファンタジーになると思う、考え方としてはね。でも、この映画を観ていると逆なんですよ。ライカちゃんは日本人の設定なんですけど、彼女が完璧にファンタジーじゃないですか、格好からして。違和感があるんです、ロシアの街の中にいて。彼女自身がファンタジーでこの世にいないんだなと、格好もやってることも。そう思って観ると強烈にグッとくるんです。
それともう1つ、僕が一番感動したのはですね、これやっぱりライカ犬の話じゃないですか。ここはたぶん狙ったんだろうなと思うんですけど、最初にライカ犬の説明がちょっとありますよね。あ、説明だと何気に聞いてたんですけど、途中でジワッときたのは、これは誰の視点の映画なんだろうかと思った時なんですよ。
映画の撮り方の問題なんですけど、カメラがどこにあるのかっていうのでだいたい誰の視点かを僕らは観るんですね。主人公二人いて、どっちの視点でもあり、どっちの視点でもないんですけど、案外、視点が離れてるの。しかも、前半観てたら、これはどこまで意識したかわかりませんけど、カメラの位置が高い。上から何となく見下ろしている映像が多いんですよ。誰かがずっと上から見下ろしている感じなの、二人を。誰が見下ろしてるんだろうって考えましてね、お母さんなのかなとか、いろいろ妄想で。
で、ふと思ったのが、これ宇宙から見下ろしてるんならライカ犬なんじゃないかと。ライカ犬が上から見下ろしてるんだと。何を見下ろしてるのかっていうと、ユーリャを見下ろしてる。ユーリャは自分で気づいてるじゃないですか、自分はライカ犬と同じかもしれないって。宇宙空間で密閉されたところに閉じ込められて苦しんでる私だってね。ライカ犬って一匹で宇宙に行ったんですよね?しかもメス。それを途中で思い出したんですよ、急に観てて。で、これはメスのライカ犬が自分と同じような境遇の人間の女の子を見ながら、宇宙からがんばれがんばれって言ってるんだなと。
そう思って観ながら、さらに妄想していって、ライカ犬も一匹で宇宙にいる時にイマジナリーフレンドを想像してたのかもしれない、寂しすぎて。飼い主なのかもしれないし、もう一匹の犬かもしれないけど、そう思ったらもうゾクってなって勝手に感動してました。
映画というのは情報なんですよ、基本的に。その情報、何をつかみだしてそこに意味を与えるのか、それはお客さんの自由なんです。映画を創ってて、いつもそう感じてるんですよ。
作者が思った通りの情報をつかみだす人もいるかもしれないし、僕みたいに妄想を膨らませてね、ライカ犬、イマジナリーフレンド、ロシアという情報を結び付けていくと、ストーリーが自分の中で出来ていくのね。この話はユーリャの成長物語だなって、もう、そうとしか見えなくなりました。
あともう1つ聞きたかったのはね、ユーリャがオーディションに行って、セリフを言うじゃない。「ハンナ、空を見上げてごらん」って。あのセリフはどこから?(今関監督=あれはチャップリンの「独裁者」から)やっぱりね。わかるわかる。あれはアンナじゃなかったっけ? 発音の仕方か。そうだろうと思ったの。それがわかるとまたちょっとジーンとしちゃってね。そのハンナって名前はチャップリンの母の名前でもあったよね。あれは映画ファンならだいたい気づきますよね。
今関さんの映画って明確に2種類あって、こういう劇映画としてちゃんと創られてるやつは比較的ナラティブじゃないですか。落ち着いてるんですよ。けど、自分でカメラやると、弾んでる感じで、すごく落ち着いてないんです(笑)
手塚眞/ヴィジュアリスト
1961年東京生まれ。 高校生の時に8mmで映画製作を始め、大島渚監督を初めとする映画人の高い評価を得る。大学在籍中から映画、テレビ、ビデオを初めとする様々なメディアで活躍。
映画を中心としながら、小説やデジタル・ソフト、イベントやCDのプロデュースも手掛け、先進的な内容やスタイルが注目されている。1999年に劇映画『白痴』がヴェネチア国際映画祭ほかで上映され、国際的に評価される。
今関あきよし(監督)
念願のモスクワでのロケ。ベラルーシ、ウクライナを舞台にした映画を演出し、ついにロシアだ。
モスクワ独特の空気感の中で、同性愛を越えるような強く依存しあう関係の日本人″ライカ″とロシア人″ユーリャ″という女のコの恋愛劇。
人はひとりでは生きていけない。
誰かを強く想い続けることでしか生きていけない弱さを描いてみたかった。
宮島沙絵(ライカ役)
初めまして、映画「ライカ」の主演、ライカ役を演じさせていただきました宮島沙絵です。
映画に出るのも初めて、海外にも行ったことがない状況で今回の作品への出演が決まって、その上台詞はロシア語で…。
もうとにかくやると決めてからはがむしゃらに走って、監督をはじめとするスタッフの皆さんが右も左もわからない私にひとつひとつ教えてくださり、アドバイスをいただきながら、たくさん悩んでライカという人間をつくりました。
体当たりで挑んで魂を込めた、初めての作品です。ふたつとない作品になっていることに違いないです。
『ライカ―Laika―』を書いてくださった石川さん、支えてくださったスタッフの皆さん、モスクワの共演者の方々、ユーリャ役のクセーニア、今関監督、感謝してもしきれません。初めての作品でこんなに素敵な方々に囲まれて私は幸せ者です!
バリショエスパシーバ!どうかこの映画を観る方の胸にたくさん届くものがありますように。
映画、楽しみにしていてください。
クセーニア・アリストラ-トワ(ユーリャ役)
みなさんこんにちは、クセーニア・アリストラト-ワです。 日本の映画プロジェクト「ライカ」でユーリャの役を演じています。この仕事は私にとって初めての本格的な、長編作品となりました。それで私はすごく緊張して、本当に心臓がドッキンドッキン鳴りました。けれど仕事が始まってからは、監督をはじめ撮影スタッフ達の支えを肌で感じながら、国の違いや言語の壁を越えて、お互いを理解し合い、感じ合ったのです。
私たちの撮影過程自体は本当に濃密で、そして皆が今この世界における緊迫した問題に取り組もうとしています。時々天気に(風や寒さや雨などに)邪魔されることもありましたが、私たちは皆でその障害を切り抜けてきました。毎日毎日、私は信じ難い経験を得、支えられ、そして自分なりのイメージを探し求め、順介の通訳なしでも全てを理解したと感じたことも度々でした。たとえ私たちの国は遠く離れていても、共有できるものはたくさんあります。例えばすごく難しいシーンの撮影の後の冗談が場を和ませる、そんな感覚などです。
沙絵(ライカ役)は素晴らしいパートナーで、まだ撮影が終わっていない時から、私は彼女と遠く離れることに寂しさを感じていました。
私はたくさんの日本のもの、言葉や歌を覚えました (そのお気に入りの中の一つはセーラームーンです)
私の演じるユーリャは、私と私自身の人生に対する姿勢を変えました。彼女のような人間はロシアだけでなく、日本でも理解されるでしょう。
彼女は誰に対しても強いけれど、心の中は小さい孤独な子供で、必要とされ、愛されることを変わらず願っています。
「ライカ」のおかげで彼女は本当の自分に少しだけ出会うことができます。これは今を生きる私たちの人生において、不幸や裏切りに出会いなお、誠実な人としてあり続ける、というとても重要なテーマです。私はこのようなプロジェクトに参加することができて、気も違うほど幸せです。そして私の心は本当に喜びで「ライカ」みたいに宇宙を飛んでいます。
アリガトウ!ロシアより一番一番一番大きい本当の愛を込めて
試写会でご覧になった方々からのメッセージ
井上路望(今関あきよし監督作品『十七歳』:原作者)
痛いほどに繊細で、赤裸々なまでにリアル。人間の弱さや孤独 そして闇と病み…。苦しい程危なっかしく絡まってる。なのに最後は、それでもまた孤独を抱きしめて生きて行く強さを感じた。
そんな二人を応援して居る自分に気づく、大丈夫 頑張れって…。
その声はきっと自分に向けてだろう。泣きたくなるくらい、人間の抱える孤独や葛藤を映し出してて、要所要所の笑いがなければもぅ溺れそうでしたよ。
大島葉子(女優)
ロシアの美しい映像と空気感の中、あっという間に物語へ引き込まれました。
ライカとユーリャという二人の少女の愛情と憎しみと、それぞれの母親との葛藤や依存、いろんな感情の中にとても愛しさを感じました。
切ないラブストーリーでもあり、もしかしたら、一人の少女の心の物語でもあるのかもしれません。。。
鈴樹志保(女優)
女の子2人の映画。静かだけど激しい映画でした。ロシアの女の子はオーディションを受けても上手くいかない女優さんの役なので、自分とダブル所があり。若い頃の恋を思い出しました。若いってめんどくさいなぁ。でも今もめんどくさいなぁ。生きるってめんどくさいなぁ。でも楽しいなぁ。
高井洸美(シンガーソングライター)
女の子ふたりの儚さがとても美しい映画でした。最後は泣いちゃった。ゼロから生み出すチカラってすごいエネルギーがいるんだけど、監督はいつ会ってもエネルギッシュ!!
渡辺裕美(ロシア雑貨店「パルク」店長)
コムナルカと呼ばれる共同住宅やメトロ、ピアノの生演奏が聴けるカフェ、ベーデンハーの観覧車。
モスクワの本当に普通の日常風景が、今関監督の目を通してこんなにも愛おしく映し出され、まるでファンタジーの世界に迷い込んだような、不思議な美しさに心奪われっぱなしでした。
モスクワを訪れたことがある人にはどこか懐かしく、ロシアに興味を持っている人は、きっと一度はモスクワに行ってみたいと思うことでしょう。
岡田恒明(プロデューサー)
ファンタジーをドキュメンタリータッチに描いていることが、意外な形で少女の魅力を更に引き出す
ことになっている、今関監督ならではの作品ですね。
素晴らしく可愛い映画でした。たくさんの人たちに観て頂かねば!
伊藤智生(映画監督)
今ちゃん、傑作だ!ロシアと日本の二人の新人女優が素晴らしい!民族が違う、言葉が違う少女二人の愛の距離感が凄く自然だった。カメラマン、脚本も凄く良かったぜ!何だか今関ワールド新境地切り開いたね。今ちゃん、おめでとう!
ヤン・カワモト(プロデューサー/監督)
異国ロシア人女優の才能を生かした今関演出が、魔法にかかった様に進化した映画!ロシア人の女性が生き生きとして描かれているのは、持ち前の今関演出のマジック。対する日本人女性の魅力は従来の今関ワールドから時代を超えて再来したかのように、愛くるしい存在だった。
とにかく凄まじく愛くるしい映画に仕上がっていた。今関監督がいかに映画を愛してやまないか、綿密な映像設計と演出に感銘!
増井公二(映像作家)
過去の今関あきよし監督作品に比べると、随分とサラサラとシーンが展開してゆくのですが、それが今回の作品には合っていて良かった!
宮島沙絵さんが大きな瞳で見つめる表情は秀逸で、ライカ犬もこんな顔をしていた時があったんだろうなと勝手に思い込みながら観ておりました。映画の中の人物が生々活動している映画は名画だと思っているのですが、まさに『ライカ』はそんな映画でした。
杉山亮一(株式会社東宝)
試写を観終えた僕が最初に思ったことは「ようやく、あたりまえのように日本と海外との合作映画がつくられるようになったんだなぁ…」という感慨のようなものでした。
ロシアの地で、ロシアの俳優を、日本の監督が演出して、極上のワンカットが完成する。この、あたりまえのような奇跡が海外合作の真髄であって、それを若手監督ではない、そろそろベテランの域に達しようとする今関さんがさらりと成し遂げてしまっていることに、僕は興奮を覚えずにはいられません。
鈴木亮(吟遊ヴィジュアリスト)
映画「ライカ」は、フラジャイルなのに肝の座った作品です。孤独の受け入れ方を(むつかしいけど)日夜考えている私ですが、「ライカ」の主題は孤独の肯定で、大変驚きました。先端が尖っているから胸の奥がチクチクと痛みますけど、優しい映画です。