ライカ、自分でそう名乗る日本人の女のコ。最愛の母を亡くした自分の境遇を、旧ソ連の宇宙計画でスプートニク2号に乗せられた悲劇のライカ犬に重ね合わせている。同時に、いつか自分も宇宙へ行きたいという憧れも抱いている。ユーリャ、有名な女優になるためにオーディションを受け続けるロシア人の女のコ。なかなか結果が出ず、焦りは募る一方だ。モスクワのとある片隅でライカと出会い、放っておけなくて自分のアパートに連れてきてから、2人の共同生活がはじまる。ユーリャは天真爛漫と孤独が背中合わせのライカのことが興味深く、どんどん好きになっていく。
2人だけの夢のような日々。料理を一緒に作ったり、笑い合ったり。しかし、1人の男性の出現でその関係は微妙なズレを生み出し始め、さらに大きな事件をきっかけに一変していく。思いが強すぎるゆえに傷つけ合ってしまう2人の女性の葛藤を、美しいモスクワの街の中に描き出す。
ライカ(1954年-1957年11月3日)は、ロシア(ソビエト連邦)が1957年11月3日に打ち上げた宇宙船 スプートニク2号に乗せられたメスの犬である。地球軌道を周回した最初の動物となった。今から60年前のことである。
生きて回収することはミッションに入っておらず、元野良犬だったライカは生きて戻れないことが確定していたのである。
厳しい訓練で、閉所恐怖症になりそうな環境に20日間押し込められた挙句、さらに狭い空間に閉じ込められたのだ。
食料は7日分積まれていたが、「最後は毒入りの餌で安楽死させられた」という説がある。生きて帰れないだけで既に酷いのだが…事実なら、せめて最後は餓えの苦しみから解放しようという“最大限の配慮”だったのだろうか。
ロシアでは「『非伝統的な性的関係』を未成年者に知らしめる行為を禁止する」とする同性愛宣伝禁止法が成立し、社会的にも同性愛を含むLGBTに対する風当たりが強い。
【同性愛宣伝禁止法】
「非伝統的な性的関係」を未成年者に知らしめる行為を禁止した法律。ロシア社会の同性愛への偏見は強く、旧ソ連時代は犯罪行為とされていた。現在も同性婚は公認されていない。同性愛者への圧力は強まる傾向にあり、宣伝禁止法以外にも、国外の同性婚カップルがロシアの子供を養子にすることを禁じる法律が2013年成立した。
『アイコ十六歳』『十七歳』に代表される少女のピュアな素顔を映像に切り取ってきた20世紀。
21世紀に入り『カリーナの林檎~チェルノブイリの森~』でベラルーシ・ロケ、『クレヴァニ、愛のトンネル』ではウクライナ・ロケなど東欧圏に目を向け始めた今関あきよしが、監督人生の大きな集大成としてロシア、モスクワを舞台に日本人とロシア人の2人の女性の間に芽生えた繊細な心の機微を映像に焼き付けた最新作『ライカ』がついに日本公開です!
アンバランスな女性の心情を描いた本作で、愛しすぎたゆえの依存性と喪失感を表現、今関監督のフィルモグラフィーが新たなステップに踏み出している。